サタデーナイト・ショートノベル Yokohama Bay K. 第2話

「ひさしぶりだねー。来てくれてありがとう。何年ぶり?」歌穂が、大きな黒い瞳を輝かせながら言う。

髪の毛は、相変わらずの明るいブラウンカラーにロングヘアー。柔らかい雰囲気の白の襟シャツ。細長い指には、艶感がたまらないナチュラル感たっぷりのヌードなネイル。

変わってない。そう、俺は思った。

「何年ぶりだろう。5年ぶりぐらいじゃない?もう、もしかしたら会うことないかなって、思ってたよ」

「そう?あたしも、いろんなことで疲れちゃってしばらく海外逃亡しちゃってたからね。そう思われても仕方ないか」

「横浜のロケーションとしては、ビールで一杯目は行きたいところだけど、歌穂の新たな門出を祝うということで、シャンパンで乾杯しよう」

「一樹、ありがとう。あるわよ、ドンペリ。いま開けるから。待ってて。さぁ、立ってないで、座ってよ。ゆっくりして」

ニューヨークのソーホーあたりのお店にありそうなアンティーク調の椅子に、俺は腰を下ろした。

カウンターには、歌穂お得意の美味しそうでカラフルな世界各国のお惣菜たちが、暖色系のお皿とともに所狭しと広げられている。木製の壁には1980年代に流行ったような大きなラジカセが組み込まれるようにしてオブジェになっている。

「壁にラジカセ?オブジェ?面白いんだけどさ」

「あ、そのラジカセは、前にミラノに行った時にセレクトショップで売ってたやつ。ラジカセがリバイバルだってことで、面白くなって買って持って来ちゃったの。オブジェというか、ちゃんと、それ音出るからね。友達のDJが編集してくれたカセットテープあるけど、かける?」

「それは当然、ソウル、ファンク系だよね?」

「もちろんでしょー」

横浜といえば、ソウルミュージックをBGMにしたいところではある。

「うーん、やっぱりいいや。あとで」

「そう。わかった」

しばらくは無音の世界で数年ぶりの再会という時を過ごしたい…そんな気がしたのだった。(つづく)

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